京都地方裁判所 昭和23年(レ)64号 判決
控訴代理人は「原判決を取消す。京都簡易裁判所が控訴人被控訴人間の昭和二十二年(ト)第五四号仮処分命令申請事件につき昭和二十二年十二月十八日なした仮処分決定はこれを認可する。」との判決と控訴人敗訴の場合における担保を條件とする仮執行免脱の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上の主張は控訴人において本件賃貸借の目的物たる家屋は本家の外その裏にある土藏をも含むに拘らず被控訴人は右土藏は賃貸借の目的物の範囲外であると主張し、自己の占有にあると強弁し土藏の使用を計画しているが前記仮処分により僅かにその実行を躊躇しているに過ぎない。而して右土藏は袋地にあつて本家を通行しなければその使用は不可能であるため、右仮処分にして取消され土藏を被控訴人の使用に委ねんか本家に於ける控訴人の生活及び営業を脅かされることは必然であり被控訴人はこれによつて控訴人を本件家屋から追出そうと策しているのであると述べたほか、原判決事実摘示と同一であるから、こゝにこれを引用する。
<立証省略>
三、理 由
控訴人は被控訴人より昭和二十二年四月被控人所有の京都市左京区川端通丸太町下ル下堤町八十二番地上木造瓦葺二階建住宅建坪約五十坪一戸(土藏共)を賃借し且占有していると主張するので先づ此の点に付き考へて見るに原審及当審に於ける各控訴本人訊問の結果(後に信用しない部分を除く)当審証人川口ハツ原審証人高見徳藏の各証言によると控訴人が右川口を占有補助者として前記住宅(土藏を含まず)を占有している事実についてはその疏明がある而し乍ら右控訴人の本件家屋に対する占有が土藏にも及んでいるとの点並に控訴人が右家屋(土藏共)に付き賃借権を有するとの点は此の点に関する原審及当審控訴本人訊問の際に於ける同人の供述はたやすく信用出來ないところであり他に此の点に関する何等の疏明はない(甲第三号証図面は当審に於ける控訴本人の供述によると本件家屋で旅館業申請をする爲に作成されたものなる事実は疏明されるが之に土藏が表示してあることから直に控訴人の占有が土藏にも及んでいたものと云うことは出來ないこと勿論である)
そうすると右の如く本件家屋(土藏を除く)に付き控訴人に占有権のあることが疏明せられる限り仮処分の必要があれば控訴人の本件処分申請は許容せらるべきものである此の点に付き被控訴人は本件仮処分前既に控訴人(債権者)を相手として京都地方裁判所昭和二十二年(ヨ)第二二二号仮処分事件に於て本件家屋に対する控訴人の占有を解き執行吏に保管を命じ且現状不変更を條件として控訴人にこれが使用を許すとの仮処分決定を得ている。從つて控訴人に於ては本件家屋に対する占有権は右仮処分により喪失しているから右の占有権のあることを前提とする本件仮処分は失当であると主張するが執行吏は國家の機関として統治権にもとずき執行手続を行うものであるから、仮処分のための執行吏保管の場合にも、執行吏の占有は公法上のものであり、仮処分債務者の私法上の占有はこれによつて左右されないといわなければならない。從つて控訴人の本件家屋に対する占有は右仮処分により左右されないと解するから、被控訴人の右主張は失当である。そこで進んで控訴人の右占有権を保護する爲めその申請の如き仮処分をする必要があるかどうかの点に付き考へて見る控訴人は被控訴人が控訴人主張の如き方法で控訴人の右占有を種々妨害し之を排除する爲めには是非共本件申請の如き仮処分が心要なのであると主張するが原審及当審に於ける控訴本人の供述中右主張に副う部分はたやすく信用が出來ない他に被控訴人が控訴人主張のような妨害行爲を爲したことを疏明するに足る資料は一もない寧ろ却て成立に爭のない疏乙第十号証原審証人吉本英二、当座悟一の各証言原審及当審に於ける各被控訴本人訊問の結果並に原審に於ける被控訴本人の供述により成立の疏明ある乙第三号証の一、二同第四号証同第五号証同第六号証同第七号証同第十二号証の一、二、当審に於ける被控訴本人の供述により成立の疏明ある同第十三号証の一、二被控訴人及第三者の作成名義であつて書面の性質及口頭弁論の全趣旨に徴し眞正に成立したことが疏明せられる同第八号証第九号各証等の疏明資料を綜合すると本件家屋は元土藏を除き之を被控訴人より訴外白尾豊策に賃貸していたところ昭和二十二年四月頃白尾が之を被控訴人に明渡すことになつたがその際偶姉弟の関係にある控訴人に対し自己に代り右明渡に立会うことを依頼したところ控訴人は爾來擅に右家屋(土藏を除く)を占有使用しそ処で旅館を開業する準備工作をしたり貿易廳の宿舎にしたりしていたのであるがその間と雖も被控訴人は土藏は前賃借人当時より自己の占有に留保し上洛の都度土藏に泊るを常としていたのであり前記の如き控訴人の擅なる使用を痛憤し屡々直接口頭で又は書面で控訴人に貸與することは出來ぬから速に明渡され度いと申出ていたにも拘らず控訴人に於て何等正当な理由もなく明渡を拒んでいたものである事実が疏明せられる凡そ占有の妨害と云うのは具体的場合に於てその妨害が程度方法に於て社会通念上占有者にその認容を強うることが正当視されないものであることを要し從て又当事者間の関係家屋使用の状況と相関的に決せられるべきものであるところ前記の如く本件に於ては当事者は姉弟の関係にあり弟たる控訴人が家屋所有者にして姉たる被控訴人に勝手に権限なくしてその家屋を占有使用し屡次の返還請求にも應じないと云う場合であり右の如き場合には仮令控訴人主張のような所爲が被控訴人にあつたとしても之を以て直ちに占有を妨害したものと云へないのみならず今後占有の妨害をする虞があることにつき全然その疏明を缺く本件に於ては控訴人の前記主張は所詮失当であつて之を維持し難い又仮処分によつて控訴人の占有の制限又は禁止を求めることは合法行爲であつて占有妨害と言へないこと勿論である。
よつて本件家屋に対する占有妨害のおそれあることを前提とする控訴人の本件仮処分申請はその他の点につき判断するまでもなく失当であるから、これと同趣旨の下に本件仮処分申請を却下した原判決は相当である。
尚控訴人はその敗訴の場合に於て原審判決に付き仮執行免除の宣言を求めているが斯る申立はそれ自体失当である何となれば右は結局原判決が本件仮処分決定を取消すとの部分に付き仮執行宣言を附し乍らその免除の宣言を附しなかつたことを失当とするものであろうが仮執行宣言その免除宣言は訴訟費用の裁判と同じく本案に附隨した裁判であつて原審判決が仮執行免除宣言を附せなかつたこと自体は独立して不服の事由とはならぬからであるよつて民事訴訟法第三百八十四條同法第八十九條第九十五條を適用の上、主文の通り判決する。
(裁判官 宅間達彦 前田治一郎 宮崎福二)